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「育ち」と「育て方」をわかちあいましょう

子どもの「育ち」と親の「育て方」に関するいろいろな情報発信をしています。
保護者の方からの質問なども受けつけ,了解が得られれば本ページ内のQ&Aに子育てに関する生の声として掲載させていただきます。
質問への回答は,広島大学大学院人間社会科学研究科心理学プログラム「2歳の日」チーム(臨床心理学)の監修で回答させていただきます。
臨床心理学を専門とする「2歳の日」チームメンバーに尋ねてみたい子育てに関する質問はこちらから

子どもの「育ち」

私たちが考える子どもの「育ち」には以下の点を重視しています。

(1)乳幼児は,「直観的統計学者」である。

  1996年,Saffran, Aslin, & Newport は,乳児が自分を取り巻く環境・世界について継続的に収集しているデータに基づいて推論と予想を立ててかかわっていることを明らかにしました。そこで彼らは,乳幼児のことを「直観的統計学者」と表現しています。

(2)子どもの身体,言語,情緒の発達は情緒的な豊な対人交流の中で育まれる。

  子どもの推論や学習が発生するためには乳幼児が積極的に自らの環境に情緒的に結びついていなければならないとされています。

  現在の乳幼児を対象とした心理学的研究では,言語と知覚の典型的は発達は,乳児の注意が対人的報酬と感じることができる事象に注意が向けらえているときに生じ,情緒的に豊かな対人交流文脈において生じることが明らかにされています。

(3)言語発達においても情緒的に豊かな対人交流が重要である。

  2003年,Kuhl, Tsao, & Liu は,乳幼児の話し言葉の発達の促進に関する研究を行いました。その結果,単に言語に触れる機会が多くなった乳幼児よりも,言葉の認識を発達させる人による対人交流的なかかわりの中で話し言葉を経験することが重要であることを証明しました。この研究成果は,対人環境や言葉に興味を示さない乳幼児への発達支援を考える重要な基盤となっています。以前,言葉の遅れがある子どもには集団療育では伸びないとされていた時期がありました。Kuhlらによって集団療育の中で情緒的な交流に子どもたちを参画させるよう注意を引き出し,その体験のなかで言語への興味関心を引き出すかが重要であることを示しています。

親の「育て方」

 私たちが考える親の「育て方」の基盤にある考え方を以下に示します。

(1)子育てしている親はよく頑張っている。

  「よく頑張っている」とは,子育てしている親御さんについて全般に言えることでしょう。特に,乳幼児は,彼らはひとりで食事をしたり,移動したり,危険を避けたりすることはできません。つまりひとりで生きていけない存在です。そこで乳幼児の養育をしている保護者の存在は,彼らを生かしているのです。その責任の重大さは,大変なものです。その1日の過ごし方を見ても,乳幼児の場合は,母乳であって数時間に一回,睡眠時間も排泄も大人のリズムとはまったく異なります。24時間,子育てにかかわり続ける保護者は,子どもたちが自立して生活できるまでは子ども中心の生活をせざるを得ません。しかし,人間は賢いもので,その重大さを意識するよりも,なんとか1日1日を過ごすことに目を向けることができます。そして子育ての大変さを当然と思ったり,もっとやらなきゃと考えたり,あるいは大変さを愚痴ったりすることができます。こうした保護者の対応は,時に批判されることもあるようですが,立派なストレス対処法です。それだけ子育てしている保護者は頑張っていますし,よくやっているのです。保護者の方々は,自分で自分を褒めて欲しいです。自分で自分を褒めることは,なかなかできることではありません。自分を褒める以外に自分を癒す,もうひとつのコツがあります。それは他の子育てで頑張っている保護者を認め,褒めてみましょう。そうするときっといいことがありますよ。

(2)成功体験が子どもの成長・発達する意欲を引き出す。

  臨床心理学を専門とする私たちは,人には自然治癒力があると想定し,人への基本的信頼感を基盤にカウンセリングをしていきます。

  乳幼児においても彼らの世界観のなかでの希望や願いがあり,その成功を願っているのです。生まれたての赤ちゃんは,天使の微笑みとされる笑顔を示し,養育者のかかわりを引き出すと言われています。養育者のかかわりが得られると赤ちゃんは満足したような表情をしてくれます。赤ちゃんが泣いたときも,養育者にあやされたり,ミルクを飲ませてもらったり,おむつを交換したり,彼らの「願い」をかなえてもらえることで落ち着いたり,満足したりします。成功体験は,乳幼児から成人まで,ひいては高齢者になっても人の成長,頑張りを引き出し,高い動機付けを維持すためには重要だとされます。

<臨床コラム> 私たちが支援している成人の発達障害の方々から教えていただいたことがあります。診断がついている彼らは,自分たちが幼児の時代から自分が他の子どもたちと違っていることは理解していたけど,どうしてもみんなと同じようにはできないし,失敗ばかりしていたと言います。それでもなんとか普通でいようと頑張ったり,カモフラージュして自分以外の自分になりながら適用しようと頑張ってきたと言います。診断を受け,適切な支援を受けることで今まで失敗していたことが「成功」できるようになり,そのことで自分のこれまでの行動を振り返ることができ,なぜ失敗していたのか,自分がどう他の人と違っているのかがわかる,つまり,自己理解が高まったと言います。彼らからは,失敗が続いていた時期は,なぜできないのかと周囲の人から「指摘」ばかりされ,誰も「どうしたらいいかという成功への道筋」を教えてくれなかったと言います。成功できるようになったら,ようやく以前の自分を振り返る心の余裕ができ,自己理解が高まり,社会適応に必要な行動が見いだせ,ふるまえるようになったと言います。それでも障害の本質である対人関係の問題や想像性の問題は,残っており,さまざまな工夫は必要であるといいます。

  「成功体験」が必要なのは,乳幼児だけでなく,成人も同様であることがわかります。ひいては子育てしている保護者にとっても,うまくいく,できていること,こうすればなんとかなるという「成功体験」や「成功への道筋」はとても重要だと考えています。

(3)保護者の期待が子どもの成長・発達の基盤を支える:「ピグマリオン効果」

  「ピグマリオン効果」はご存知でしょうか?ピグマリオン効果とは,教育心理学の用語で「教師の期待が生徒の学力向上に寄与する」ことを指します。現代でも,ピグマリオン効果は,子育てや企業のリーダーの部下のモチベーション向上などでもよく耳にします。

<研究コラム> 1969年,ハーバード大学で教育心理学を専門とするローゼンタール(Rosenthal)教授は,未就学児60人のための早期教育プログラムの研究を実施しました。この研究では,未就学児の学習に対して①生徒に比較的ゆっくりと学習させるように訓練された教師と②生徒が優秀な知力と学習能力を有していると信じ込まされた教師の二種類の教師による教育を実施しました。すると②の教師に教えられた教師の方が勉強の進歩が速かったという結果が得られ,「生徒の知的能力に対する教師の期待度の高さは,教育面において生徒たちの『自己実現力』となることがある」と結論づけました。つまり,ピグマリオン効果とは,他者から期待されるとモチベーションが上がることによって,その期待通りの成果を出しやすいという現象を表すというものです。この現象は,教育心理学における心理的行動のひとつで「教師期待効果」,または「ローゼンタール効果」とも呼ばれます。

(4)子どもの成長・発達には「心理的安定」が重要である。

  子どもの成長・発達には探索行動や経験値の直観的積み上げが必要です。そうした探索行動ができるには,安心できる特定の人(母親や父親)の存在がとても大切になります。その特定の人との間に築かれる情緒的なつながりを愛着といいます。愛着形成は子どもの成長・発達の基盤とされます。乳幼児が公園や新しい場所での遊びを展開していく際には,必ず探索行動をします。そして特定の人(愛着対象:母親や父親)を安全基地として探索行動をおこない,徐々にひとりで,あるいは他児,他者との遊びと広がっていくという経験がおありの人が多いと思います。

<臨床コラム> 私たちが出会う乳幼児と保護者と一緒に遊んでいると,時に,子どもが保護者をまったく意識していないように探索したり,他者とのかかわりを楽しんだりすることがあります。子どもは保護者から離れたところで遊びに熱中していきますが,それでも保護者の方をちらちらとみて,気にかけて,確認して安心している様子が見られます。そうしたときに,たまに保護者からは,「うちの子は遊びだすと私のことを忘れてしまうようです」とか「私はまったく気にとめてもらってません」とかの言葉が発されることがあります。私たちは,こうした子どもたちの小さな発信を見つけ,引き出し,子どもの成長・発達の足跡として保護者に伝えるようにしています。やんちゃなお子さんだとしても「心理的安定」(特定の母親や父親)を持っているからこそのやんちゃだったりすることを理解されると,保護者も少しは安心されるようです。子どもの「心理的安定」としての特定の人となることは,保護者にとっても子育てする上での「心理的安定」として重要な役割を担っているのだなと感じます。

(5)乳幼児の発達の鍵は,興味関心をどう向けるかである。

  乳幼児の興味関心は狭そうに見えるがそうでもないようです。彼らの興味関心を拡げるには,彼らの興味関心の中に入って共有することからスタートすると考えています。

(6)「添う,と,導く」のかかわりが乳幼児の発達をお手伝いできる可能性を有する。

  乳幼児の世界観に入って,一緒に興味関心を持とうとする姿勢が「添う」であり,「添う」ことで興味関心と楽しみを共有し,外の世界の楽しみへと「導く」ことが乳幼児のかかわりとして重要であると考えます。実際,保護者が楽しそうにしている子どもの世界観を共有していると,子どもの苦手な場面になったときに,保護者がしっかり子どもの苦手さや怖さを共有し,「一緒にがんばってみようね」と導く姿を見かけます。保護者の方々はすごいなと思います。

【こぼれ話】

 ①ピグマリオン効果はもうわかりましたね。実は,心理学用語にはその逆の用語もあります。それは「ゴーレム効果」というものです。「ゴーレム効果」は,他者が相手に対して期待できない,見込みがないと思っていると,本当にその通りの悪い結果になってしまうという効果のことです。こうしたことは自分自身や身近なことでもよく起きていると思います。子育てだけでなく,人との付き合いのなかでも用心したいものですね。

 ②「ホーソン効果」という用語があります。「ホーソン効果」とは,注目を浴びることで,その期待に応えたいという心理が働き,良い結果をもたらす効果のことです。乳幼児が注目されたり,褒められたりしてみんなの関心が自分に集まるともっと頑張ったり,実力以上の力を発揮したりすることはありませんか?

 ピグマリオン効果,ゴーレム効果,そしてホーソン効果は,子育てだけでなく,人付き合いの多い社会生活のなかで知っておくと便利かもしれない人の心理の真実かもしれませんね。

子育てQ&A(生の声)

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